明細を見て、ため息をつく
介護職が定着しないのは給料が安いからだ、という意見をよく見かけます。しかし、辞めていった人の顔を思い出すと、少し違うのではないでしょうか。処遇改善の加算が増え、賃金は以前より上がりました。それでも人は入れ替わり続けています。もし原因が金額だけであれば、上がった分だけ人は残るはずです。残っていません。私は、職場を離れる決め手になっているのは金額ではなく、困ったときに言える相手がいるかどうかだと考えています。給料は明細を見れば分かります。言える相手がいるかどうかは、入ってみないと分かりません。
六人が、続けて辞めました
私の施設では、管理者の層が一度に六人続けて辞めた時期があります。一人が辞め、次が辞め、また次が辞めました。新しい部長陣を集めるのに、私は長く苦労しました。確かに、賃金の見直しが必要な場面もあったと思います。しかし辞めていった人たちが最後に口にしたのは、金額の話ではありませんでした。判断を仰ぐ相手がいない。決めたことを説明する場がない。そういう話でした。残された現場には、判断できる人がいなくなりました。経験の浅い職員が判断を求められ、その判断が合っていたかを教えてくれる人もいない。私はあのとき、自分が「人」に頼って施設を回していたのだと思い知りました。
調査が、同じことを示しています
公益財団法人介護労働安定センターの令和5年度「介護労働実態調査」によると、前の職場を辞めた理由の第1位は「職場の人間関係に問題があったため」で34.3%でした。前年度より6.8ポイント増えています。一方、「収入が少なかったため」は16.6%です。賃金を理由に挙げた人の、二倍を超える差があります。さらに、人間関係に問題があったと答えた方の内訳を見ると、「上司の管理能力が低い、業務指示が不明確、リーダーシップがなく信頼できなかった」が43.2%を占めます。管理能力、業務指示、リーダーシップ。ここには性格を表す言葉が一つも入っていません。やり方の話です。
見るべきものは、明細の外にあります
職場が続くかどうかを決めているのは、金額ではなく、困ったときに言える相手がいるかどうかです。賃金が大切でないという意味ではありません。ただ、賃金は入る前に比べられます。言える相手がいるかどうかは、求人票を何枚並べても分かりません。もし、いまの職場を離れようか迷っている方がいらしたら、次を探すときに一つだけ確かめてみてください。困ったとき誰に言うのかが、その施設で決まっているかどうか。「何でも相談して」と言われたら、それは決まっていないという意味かもしれません。